自分に取って幸福とは何だろう?自分の好きな仕事に就けた人間は幸福なはずである。だが、学生時代に研究者を目指した自分は、すぐにこの世界の恐ろしさに気づく。研究者になるのも大変。なってからも大変。自分の周囲を見渡してみると、成功した、つまり有名大学或いはそこそこ知名度の高い大学の研究者になれた研究者は、そのストレスから髪の毛に苦労の痕跡が見られることが多い。つまり髪の毛がなくなるか、白髪だらけになるような負荷を自分にかけているのである。皮肉なことに首尾よく大学院に入学出来ても、つまり研究者の卵になれても、博士課程を修了するころには研究に嫌気がさすというような話も聞く。自分は研究が好きではないと言っていた昔の上司は40代前半で東京の私立大学の教授になった。
現在、自分は幸福かもしれない。職業は非正規の身分でしかも研究職ではない。だが、優しい上司や同僚に囲まれ、マイペースに楽しく仕事ができ、金や食べ物にも困っていない。恋愛関係はノーコメントであるが。
人間、何が幸いするか本当に分からない。50歳近くなって、生きているだけで儲けもん、おまけに衣食住事足りて夢にじわりじわりと近づいている。時代も世界も大きく変わろうとしているように見える。こんな時代までよく生き延びたと感慨深い。
医者や研究者を若者が目指すのは大いに結構。だが、立ち止まったり、迷ったり、一時的に戦線離脱してもいいのだよ、と諭したい。一生全力疾走できる人間なんて居ないのだから…その場その場で常に自分のベストを尽くすことは大切だが、それは無理して全力投球し続けることとは違うと思う。